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高知地方裁判所 昭和24年(ワ)19号 判決

原告

窪田淸市

被告

高知県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

請求の趣旨

被告知事が別紙目録記載の農地(田四筆合計一反三畝二十七歩)につき昭和二十三年二月二日附買收令書を原告に交付してした買收処分は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、請求原因として、

訴外朝倉地区農地委員会は別紙目録記載の農地につき、これを原告に保有が認められた面積七反歩を超過する小作地としてその買收期日を昭和二十三年二月二日とする買收計画を定めた。そしてこの買收計画は同年一月十六日開催の委員会でなされた買收決定に基づくものであるがこの決定には次のような違法がある。(一)右農地委員会は本件農地が保有面積七反歩以内の小作地として原告に保有を認めらるべきものであるにもかかわらずあえてその買收決定をしたものである。すなわち原告は本件農地以外に高知市朝倉字倉乙六百九十九番の一田一畝十六歩外六筆の田合計一反三畝十三歩を所有しこれを朝倉靑年学校に対し廃校になれば返還を受ける約束で賃貸していたところ昭和二十二年末の学制改革により同校が廃止されることとなつたので同校長から昭和二十三年二月十八日廃校と同時に返還する旨の書面による意思表示を受けた。そして同年三月三十一日同校の廃止とともに即日その引渡を受けそれ以来原告がこれを自作している。しかもその後この賃貸借契約の解約につき原告は同年十二月七日付の被告の許可も受けている。以上の事情からすればこの農地はそれが原告に引渡される以前においても当然原告の自作地と認められるべきである。そしてこの農地を除けば原告の保有する小作地は本件農地を加えて七反歩以内であるから本件農地の買收はできないものである。しかるに右農地委員会は右農地を小作地と認定し、従つて本件農地を保有面積超過の小作地としてその買收決定をしたものである。(二)右買收決定は本件農地の買收に関する議案を正式の委員会に付議せず、従つて自作農創設特別措置法第六條所定の手続を履まずになされたものである。従つて当時原告は右農地委員会の委員であつたがこの決定を知らず、そのため買收計画に対する異議訴願ができなかつたものである。そこで本件買收決定は買收すべきでない農地を買收し、しかも法律上要求される手続を履まなかつた違法があり無効のものである。従つて、その後本件農地につき昭和二十三年二月二日附で買收令書を発行し、同年六月十四日これを原告に交付した被告の買收処分はこの無効の買收決定を前提とするものであるから当然無効である。原告はその無効確認を求めるため本願に及んだものであると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は本案前の弁論として、原告の本訴は被告の買收処分の無効確認を求めるものであるが買收処分の主体は政府すなわち国であるから本訴は国を被告とすべきであつて被告知事は当事者たる適格がない。従つて本訴はこの点において棄却さるべきであると述べ、

本案につき主文第一項と同旨の判決を求め、原告の主張事実に対し、訴外朝倉地区農地委員会が別紙目録記載の農地につき原告主張のような買收計画を定めたこと、これが原告主張のような買收決定に基づくものであること、原告がその主張のような農地を朝倉靑年学校に賃貸していたこと、その学校が廃校となりこの賃貸借契約の解約につき原告がその主張のような被告の許可を受けたこと、原告から本件農地の買收計画に対し異議訴願がなかつたこと及び被告が原告主張のような買收令書を発行しこれを昭和二十三年六月十四日原告に交付したことは認めるがその余の事実はすべて争う。本件農地並に靑年学校に対する賃貸地が買收決定の昭和二十三年一月十六日並に買收期日の同年二月二日当時原告の賃貸した小作地であつたことは原告の主張自体からして明白であり且つ本件農地は原告の保有面積を超過する部分であるから買收決定は当然である。又昭和二十三年一月十六日の朝倉地区農地委員会は委員十名中原告を入れて九名が出席し、同日第二号議案として本件農地の買收計画を審議決定したのであるからその決定手続に違法な点はない。従つて被告の本件買收処分にも何も違法はなく、無効であるとは到底いえない。原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

理由

本訴は被告が買收令書の交付によりなした自作農創設特別措置法に基く農地の買收という行政処分を法律上当然無効であるとしてその無効確認を求める訴である。職権を以て先づ被告の当事者適格の点について判断する。かような行政処分の無効確認を求める訴は原則として國を被告とすべきものである。しかしながら行政処分をした行政廳が被告とされる場合も当該行政処分の無効なることが確定されることにより実質上権利義務に影響を受けるものは結局当該行政権の主体である國であつて結果として國が直接被告とされる場合と差異がない。してみると本件において買收処分をした行政廳である高知縣知事に対し被告としての適格を認めることは必ずしも許されないところではない。從つて同知事を被告とする本訴はあえてこの点において棄却すべき限りではない。

そこで進んで請求の当否について判断する。訴外朝倉地区農地委員会が別紙目録記載の農地につき、これを原告に保有が認められた面積七反歩を超過する小作地としてその買收期日を昭和二十三年二月二日とする買收計画を定めたこと、この買收計画が同年一月十六日開催の同委員会でなされた買收決定に基づくものであること及び被告がこの農地につき同年二月二日附の買收令書を発行し同年六月十四日これを原告に交付したことは当事者間に爭いがない。そこで朝倉地区農委員会の右買收決定に原告主張のような違法があるかどうかについて考える。原告がその主張のような農地を朝倉靑年学校に賃貸していたことは当事者間に爭いがない。ところでその農地及び本件農地が前記昭和二十三年一月十六日の買收決定当時他に賃貸した小作地であつたことは原告の主張自体から明らかである。原告は右学校に対する賃貸地はその主張のような事情があるがら右時期には当然原告の自作地と認めらるべきであると主張する。そして証人中田卓美の証言及び原告本人訊問の結果を綜合すると昭和二十二年末頃右学校の廃止が決定され翌二十三年春頃原告はこの農地の返還を受ける約束を校長と取りきめ、同年三月末同校の廃止と同時にその引渡を受けたことが認めれらその後この返地につき同年十二月七日付で被告の賃貸借契約解約の許可を受けて完全にこの農地を自作地としている事実は当事者間に爭いがない。しかしこの事実からして推測できる右買收決定当時近くこの農地が原告の自作地となるとの事情はたとえそれを朝倉地区農地委員会が知つていたとしても原告主張のようにそのため当然この農地を原告の自作地と認めなければならない事情であるとはいえないし、又前記のようにこの農地が当時小作地であつたことが明らかである以上せいぜい場合により買收決定を不当とすることはあつても到底違法なものとするにはいたらないものというべきである。次に原告は本件農地の買收に関する議案が正式の委員会に付議されなかつた違法があると主張する。しかしこの点に関する原告本人訊問の結果は信用し難いしその他にこの事実を認めるに足る証拠はない。却つて成立に爭いのない乙第二乃至第六号証によれば昭和二十三年一月十六日当日の委員会は原告を含む委員九名が出席し、同日第二号議案として本件農地の買收を満場一致で決定していることが認められる以上の次第であるから朝倉地区農地委員会の買收決定に違法はなく、それが無効であるとの原告の主張は到底採用することができない。

しからばこの買收決定の違法を前提とする原告の被告に対する本訴請求は失当であることが明らかなので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文のとおり判決する。

(森本 安藝 谷本)

(目録省略)

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